English Zone Podcast ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ John Howe: ファンタジー画の世界 vol.2 日本語訳テキスト <質問3> 『ロード・オブ・ザ・リング』と比較して『ナルニア国物語』はどのあたりが コンセプトを描く際に難しいと感じたのですか?『ナルニア国物語』は、『ロード・オブ・ザ・リング』ほど細部まで描かれていないような印象を受けますが。  <ジョン・ハウさん回答> 『ナルニア国物語』の世界観は『ロード・オブ・ザ・リング』とは大きく違います。『ロード・オブ・ザ・リング』はいうなれば、私たちの世界とは独立した完全なる宇宙です。一方『ナルニア国物語』は私たちの世界に住む4人の子供たちがおとぎの国に飛び込んでいくストーリーなのです。そういう意味では、両者は異なる宇宙の物語なのです。またビジュアル的に見ても『ナルニア国物語』は多くの要素が必要とされます。そこではギリシャ神話や伝説、そしてその他のヨーロッパ諸国の伝説といった領域にまで踏み込むのです。そうですね・・・例えるなら、いろいろなおかずが並ぶ食卓のように、ミックスされている状態です。両者はまったく違う世界観なのです。C.S.ルイスとトールキンは、仕事仲間であり、友人であり、同じ現代の作家なのですが、両者はまったく違うことを語ろうとしています。考えも違えば書くことも違う。その違いがビジュアルにも表れていると思います。    <質問4> ジョン・ハウさんが描かれているのは、ヨーロッパのおとぎの世界だと思うのですが、宮崎駿さんを含めた日本のおとぎの世界についてはどうですか? <ジョン・ハウさん回答> ひどい質問ですね。なぜなら私にとって、日本や中国を含めたアジアの神話や物語を視覚化することはとても興味がある話だからです。でも私は仕事に関してはゆっくりやるほうなので、もしそれを実現するのであればかなりの時間が必要になります。そして、日本のおとぎ話のように奥深く複雑で美しいものであればあるほど、それに取り掛かる際には神経質になりますし、労力を要することになるでしょう。とても勇気のいることなのです。もし日本の物語を手掛けるとなったら、あと10年以上の研究が必要でしょうね。        日本についての詳細な情報やごく簡単な視覚表現を学ぶのは、そんなに難しいことではありません。しかし、スピリットを学ぶことはとても難しい。いくら細かな情報を一緒につなぎ合わせても、それだけではスピリットを表現していることにはならないのです。これら2つ要素について、違いをしっかりと認識しなければたいへんなことになってしまいます。  English Zone Podcast ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ John Howe: ファンタジー画の世界 vol.2 <質問5> 歴史やスピリットを学ぶために特別何かしていることがあれば教えてください。またイマジネーションを広げるためにしていることがあれば教えてください。 <ジョン・ハウさん回答> 目を開けているときはいつでも、たぶん寝ているときでもそうかもしれませんが、より多くのことを学ぼうとしたり、ものごとを正確にとらえようと努めています。それがたとえ100回目に見るものであっても、初めて見るように心がけています。この世の中に意味のないものはなく、どんなものにも細部があり、生命と色にあふれ、人間らしさにも溢れています。それを忘れてはいけません。   ところであなたにお話したいことがあります。息子、妻と一緒にパリのルーブル美術館に展覧会を見に行ったときのことです。そこで、ゆっくり足も止めずに急いで見て回っている、おそらくカナダ人と思われる子供たちのグループに出会いました。その中の一人が友達に向かってこのように言っていました。たしか私の父親も昔同じようなことを言っていました。「ただツボの断片や花の絵が数多くあるだけじゃないか」とね。それを聞いてとても悲しくなりました。なぜなら、どんなツボのかけらでも、それは人間の手によって作られ、その背後にはそれらが作られたストーリーがあるのです。単なる断片ではないのです。作者の思いを伝える指紋がその断片には付いているかもしれません。もし私たちが普段からそのことを意識していなければ、多くのことを見失うことになるのです。  ニュージーランドを訪れたとき、とくにその大切さについて感じました。ピーター・ジャクソン監督が言いました。「僕たちは、イメージがスクリーンに現れるその瞬間から、見る人が入り込める、信じられる、感じられる世界を作らなければならないんだ」と。その瞬間、そういう世界を作り上げるには、いかに多くの知識や技術や要素や労力が必要かということに気付いたのです。どれくらい細かな描写が必要なのか、どれくらい多様なもの作る必要があるのか、どれくらい独創性を込められるのか、それらすべてをどのように組み合わせていくのか、そして基本としてどれくらい人間性を取り込んでいくのか。そして、その壮大な構想の前に、自分たちはなんて無力なんだと感じたのです。だから常に自分の好奇心を開いておくことが必要だと感じたのです。